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万年筆

万年筆のこと(2) M800、壊れました?!

M800、壊れました?!

幸せな万年筆ライフ 「一生もの」との付き合いの始まり

フルハルターでペリカンスーベレーンM800緑を受け取って、僕の幸せな万年筆ライフがはじまりました。

使えば必ず傷がつくのは承知ですが、無駄な傷をつけないように、万年筆はフェルトがはってあるペン皿に置き、そのペン皿はデスクの引き出しの中に、どこにもぶつからないようにスペースを作って大切に保管していました。とても大切に扱っていたのです。

しばらくは自宅だけで、これに決めた!という紙スタッフ(日記、アイデアを書き溜めるメモ、便箋と封筒など)に、文字の大小や強弱、縦書き横書き、アルファベット、ひらがな、カタカナ、画数の多い漢字を書いてみて楽しんで。直感で選んだインク ペリカンのBlue Blackは、それらの紙の上でまずまずの色合いを出しておちつきました。それら気に入りの紙では、運良く裏にインクが透けないことも確認して、すっかり安心しました。

どんなに気に入ったインクでも、使い続けてきた紙スタッフで使えないとなると、そのインクは特別な時にだけ使うものになってしまうでしょうから。縁を得て、そのインクでも使える紙スタッフが見つかり、それを試す時間ーおよそ年の単位でーを経て、使い続ける覚悟ができて、、、、。

やはり、残りの人生でずっと連れ添って使っていきたいと思えるようなものは、できればそれらと若い頃に出会って使いはじめるのがいいなと気がついた時でもありました。ただ、若い頃だと、これからずっと自分に合うか合わないかを理解判断できるかどうか。よしんば分かったとしても、経済的に、また縁や運が必要なものならば、それを手にいれられるかどうかはまた違う問題となのですが。

万年筆や機械式時計は、それだろうと思うのです。

「一生もの」というフレーズはよく聞きますが、今の自分の年齢とサラリーマン生活の残りを数えられる歳になってきたら、「一生もの」の意味はずっと深いと思えます。

自分の「一生」の年数を、実際に数字として認識したり、それへの投資と考えて費用を年数で割ったりする自分に気がつくのも近頃です。

以前、すでに引退されていた先輩が、「ゴルフ会員権は、若いうちに手に入れた方がいい。この歳になると割高で仕方がない。」とアドバイスを下さいました。その時は実感無く聞いていたのですが、今、その先輩がおっしゃっていたことは、金額的な割高という意味よりむしろ「一生もの」の残り時間、特にゴルフでは愛着のあるコースで納得できる体の使い方ができる時間、が、予測できてきてしまう現実、をおっしゃっていたのではないかと思えるのです。

若い時には思いが至らない事がたくさん出てきました。

M800、職場へ出動

およそひと月ほどのあいだ、家の中だけで使い、いよいよ「万年筆を持つ」決心をさせてくれた書類へ署名をするために、職場へ持っていきました。その書類とBlue Blackの相性もなんとか良く、裏抜けすることもなく、よし、これを使っていける、これで安心と。それ以降ずっと、紙スタッフへの署名はペリカンスーベレーンでしています。

日本版SOX法が浸透すると、過剰反応ではと思うほど職場での自筆署名の要求と機会が増えました。短い時間で数十枚の書類に署名した時、フルハルターの万年筆だと腕の疲れが無いことを実感しました。一方、カーボンコピーが必要な書類ではボールペンが必須なため、依然、気に入ったボールペンは使い続けていました。いずれの”筆記具”も、仕事でのキーボード入力の時間と比べると、ささやかな時間でしたが。

万年筆の特徴として言われる”書いても疲れが少ない”ということが、どんな万年筆でもそうなのかは、僕にはわかりません。自分に合う万年筆しか長時間にわたっては使ったことが無いので。

さらに、いい感じのペンの持ち位置がつかめてくると、ペン先に力の入らない、優しく紙に触れているといったバランスで書き続けられるようになってきます。その状態でも、線がかすれないような丁度良いインクフローがあることも、自分専用の調整が必要な理由の一つです。しかし、インクフローはペン先の隙間などの状態に加えてペン先の接紙圧と紙質にも影響されるので、どんな状況でも一本の万年筆で完全というわけにいかないのではないかという事も、じわりとわかってきました。

この部分を書きながら、あらたに疑問が出てきました。力を入れずに書ける技術が身につくと、ペン先の調整研磨されていないニブポントが、自分好みの角度になって、滑らかさを得るまでの時間はさらに長くなるのではないだろうか?あるいは、表面のざらつきが消えるまでは圧力をかけざるを得ないので、同じ時間か?素人の悩みが尽きません。

インク漏れ?壊れた!

職場に持っていくようになって2週間ほど経った時のこと、夜、自宅でいつものようにインクを吸引して充填する儀式を終えた時、およそはじめて指先をインクで汚してしまいました。

単純な失敗と思い、手を洗って万年筆を持つと、また指先が汚れます。胴部をティッシュペーパーの上を転がしてみると、その胴部についていたインクはキャップのためのねじ切りあたりについていたものであることがわかりました。

「まずは冷静に!」と、完全にあせっていた自分に言い聞かせ、覚えたての「万年筆洗い」を試みます。「万年筆洗い」はその時ですでに3度目。嬉しくて2週間ごとにやっていたので、慣れた手法です。

「洗い」専用にしたガラスコップを水道からの流水の下において、溜めた水の中でシリンジを出し入れしてインクを洗い出し、最後は蒸留水を使いキャップの内側もよく洗って内側の水滴を綿棒で拭き取って全体を綺麗にしました。その時、綿棒でキャップの水滴を拭う際に、キャップの端のねじ切り部分にインクのこびりつきがあることがわかりました。

「インクがペン先から漏れてキャップの内側を伝ってねじ切り部分に溜まったのだろう。この数日、荒い使い方もしたからな。」と、慈しみを込めて再度丁寧に洗い、丁寧にインクを吸引し、最後に試し書きをして問題なく書けることを確認してキャップをしようとした時、右の親指と中指がインクで汚れているのを見つけ、ひどいパニックに陥りました。

「なんだ、これは! インクが漏れているのか?」

ティッシュペーパーを数枚重ねて机に置き、その上でペン軸を転がしたところ、ペン先を支えている首軸(黒)と胴軸(緑と黒の縞の部分)のつなぎ目に相当するところに、一筋、インクの跡がついていました。

おそるおそる、首軸と胴軸に少しだけ力を入れて少しだけ斜め方向に力を入れてみると、まさに首軸と胴軸のつなぎ目からインクが漏れ出してくることがわかりました。

隙間ができる構造なのか!

逡巡半年、一大決心し、お願いして調整いただくことにして、2ヶ月待った末に手に入った、大切なM800が、ひと月あまりで壊れた、、、などとは信じたくありませんでした。

が、事実でした。

ひどい失望、そして万年筆が使えないというもどかしさで参りました。

M800、修理のため手から離れる

連絡の上、なんとか仕事の予定を調整して早々にフルハルターを訪ねました。

森山さんのご説明と、自分なりの理解を合わせると、万年筆の構造上、その接合部は弱い部分の一つで、扱い方によっては壊れると。

確かに僕は、職場で使うことだけを考えて、どうやって”安全に”運ぶかについては考えが及んでいませんでした。それまで使ってきた丈夫な金属製ボールペンと同じような扱いで、意気揚々と会議や昼食、夕食、通勤と、スーツの上着の左内にあるペン差しに入れたままにしていたのです。

安全に運ぶためのペンケースなどは、まだ全く考えの外でした。

修理の相談をしている時に、森山さんが左腕で左胸を守るような姿勢を示されました。ご本人が万年筆を胸にさしている際は、人とぶつからないようにするのはもちろん、自分の腕も左胸にさわらないように、守るように左腕を使う姿勢です。

ああ、だめだ。僕は調子にのって腕組みしたり(この事件とは関係なく、先輩にやめなさいと注意をいただいていた悪い癖の腕組みでした)、通勤電車でも左胸を守ったりしてませんでした。鞄を持つ手とつり革を持つ手。だから胸の万年筆を守るという気は遣えていませんでした。

バリスティックナイロン生地のTUMI鞄の中にむき身で入れて運ぶよりは傷がつかないだろうと思って、スーツの内側の胸ポケットに入れていたのです。

完全に自分の知恵と経験の無さによる失敗です。ペン先は問題なく使えているという森山さんの言葉も上の空、愛するM800が自分の不注意、無知で壊れたこと、そして修理代金を不安に考えながらしょんぼりしていると、胴軸のみの交換ですむことになるならばそれほどの料金にならないと言われてかなりほっとしました。それでも1ヶ月くらいはみてとのこと。

「夏目漱石だって洋行時の船上で、胸ポケットに万年筆を指したまま運動して、早々に壊してしまったのだし。よい勉強になった。」と、みしみしと音をたてて気持ちが前向きに。そうして、ピンと火がついた音がしました。

「そうか! 修理する期間もあるのだ。だから万年筆は1本ではだめなんだ。幸い修理代金は心配していたよりずっと安かった。もう廃棄かもと思っていたくらいだったし、だからもう一本を、今、ここでお願いしていくのは、何の問題もない!」

かなりおかしい思考になってますが、動転から冷静になる過程でピンと火が入った回路の反応でしたね。何年もたってから、仕事でも私生活でも、ある状況を変化させるには一定の思い切りが大切なことも学びました。

そして、最初の一本を決める時に最後までどちらにしようかと迷っていた青縞のM800を、その場でお願いしていました。

帰り道は、動転から覚めていく感覚と、勢いで2本目をお願いしてしまった(思いきれた)ことに興奮して、なんとも言えない感じでした。

「やってしまったな。でも、これは正当なことだ。そうに違いない。」

僕のM800、戻る そして2本に

およそ1ヶ月後、修理終わった緑のM800と青のM800とが僕の元に来ました。

青のM800もニブはM、インクはBlue Blackより青のまさった透明感のあるペリカンのRoyal Blueにしました。

そしてこちらは、完全に自宅用にしようと。

愛用の万年筆が職場と自宅の間を毎日往復することによるリスクを回避しよう思ったのです。

それに、自宅で浮かんだアイデアのメモがどれかが後でわかりやすいように、インクの色が違うのは便利なので。

理由(言い訳)はいくらでも出てきます。何より大事なことは、2本持ちは1本持ちの2倍よりずっと便利で心地よいという事実です。

その日から、「僕がストレス無く使うためには何本の万年筆がリーズナブルに必要なのだろう?」と、考え出しました。

この考察は、次回。