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万年筆

万年筆のこと(9)M805オーシャンスワールを「フルハルター」で

ペリカンスーベレーンM805  オーシャンスワールを「FULLHALTER フルハルター」で

M805オーシャンスワール(Ocean Swirl, “大洋の渦”)

2017年特別生産品M805オーシャンスワール(Ocean Swirl, “大洋の渦”)を 発売と同時に「FULLHALTER フルハルター」でお願いしたのです。

なぜかはわかりませんが、とにかく引き込まれるように欲しくなって、止まりませんでした。万年筆ウイルスに感染し、万年筆熱をだしているという人もありますが、2017年11月の「FULLHALTER」のホームページに、見覚えのある敷物の上で撮影されたM805オーシャンスワールの姿を見た時、ペリカンの宣伝用の写真とは違った魅力ある模様と色、光の具合で変わる、特に濃い紺色から鮮やかな青までかわる、波が砕ける時のような姿に魅せられてしまって。(https://fullhalter.exblog.jp/m2017-11-01/

自分には贅沢な求めだとはわかっていたのですが、「多分、これで最後(今の僕の状態では)」と、その時は真剣に思ったのと、僕自身の海についての想い出がこみ上げてきて、止まりませんでした。

パラジウムプレートされたシルバーのリングとクリップが、ペン軸の色合とあっていて(完全に好みの問題です)、良くも悪しくも僕の記憶から生涯離れることのない、故郷の海の色、夏と冬とで全く違う色、の想い出と一体となって、なんだか泣けてきそうになったことを思い出します。

ペン先はロジウムコーティングの18金で、この書き味にも興味があって。ロジウムコーティングのペン先は、僕にとってはやや硬い印象なので、それを一本持っておきたくて。僕は本当はどういうペン先が好きなのか、その好みは将来はどうかわっていくのか、同じなのか、あるいはM800よりずっとやわらかいM1000をより好むようになるのか、あるいは全然違う書き味を好むようになるのか、そして紙質、インクの質の違いでペン先の好みが変わるのか、といった興味の振幅を、他の条件は同じにして、少しだけ硬いペン先を持っておいて確認していきたかったのです。というのは、後からの言い訳が十分込められていますが、時間が過ぎた今、その思いが正しかったことを毎日のように確認しています。幸せな時間が続いているという有り難さ。

余談ですが、「ロジウム (rhodium)」は原子番号45の元素Rhで、元素周期表をみると、Rhのすぐ下にはイリジウムIr, その右、つまりロジウムの右下には白金Ptがあります。ロジウムは白金族元素の一つで、貴金属にも分類されるレアメタルだと。一般に金と同様か、金より腐食に強く、また非常に硬いことが特徴とされています。銀は味わいのある素材で好きなのですが、手入れを怠ると表面が酸化して黒く変色してしまうことがあります。銀磨きによって黒い着色は落とすことができるのですが、同時に銀の一部を剥いでいくことにもなります。そういった酸化による色の変化やそれに伴う銀の消耗を避けるため、ロジウムによるメッキは多くなされているようです。

あなたが使っているインクのpHは?

ところで、今回のブログを書くにあたってロジウムと金の相性を調べている途中で、万年筆のインクは強い酸性からアルカリ製まで幅広くあることをはじめて知りました。ペン先が金であることは、書き味の点だけではなく、酸性のインクへの耐久性のためにも必要な金属であろうことを知りました。ロジウムは、金や白金(プラチナ)と同様の耐久性を示す金属で、白色に輝くため銀の保護のメッキにも、また金材の装飾にも使われる素材のようです。

インクの酸性、アルカリ性について、あるブログ(『萬年<筆>不精録』水素イオン指数(pH)とインク其の3、http://blog.livedoor.jp/tomolion/archives/4277469.html)で見つけたまとめによると、海外のインク、特にブルー系は酸性のものが多いとのこと。僕が日頃使っているペリカンのブルーブラックのpH は1.9、ロイヤルブルーのpHは2.7と、酸性が強いようです。脱線しますが、pH2というと、胃液やレモン汁がpH2程度、また温泉の水素イオン濃度による分類では、pH2未満の温泉を強酸性泉に分類しているとのこと(https://ja.wikipedia.org/wiki/酸性泉)。ペリカンのブルー系はかなり強い酸性のようです。同じまとめによると、日本メーカー製のインクは中性から弱アルカリ性とのこと。インクのpHについては意識していませんでしたし、自分が使っているインクが強い酸性であることをはじめて知りました。書き付ける紙のpHや性質とあいまって、書いた字には短期、長期で相応の化学変化がありうるだろうなと理解しました。pHの値と腐蝕性が一致するわけではないでしょうが、ペン先だけでなく、万年筆の内部の素材の選択や購入後の扱い方の注意、特に、インクの種類を変えることは望ましくない(変える場合には十分な洗浄を)という注意が納得できるものとなりました。自社のインクを使うぶんには万年筆の耐久性は、まあ時間をかけての検査ができていると想像しますが、市販品だけでもたくさんのインクがあるし、それぞれ仕様の変更や新製品の発売は相次ぐので、とても全てについての保証をすることはできないだろうな理解した次第です。なんとなく怖い感じがして、インクの世界には足を踏み入れないと自分に言い聞かせていたことは、正しかったように思われてほっとしています。

さて、M805オーシャンスワール(Ocean Swirl, “大洋の渦”)。

「フルハルター」でも入荷は少数とのことでしたが、お願いすることができました。BBからMへの研ぎ出しで、普段一番よく使う他のM800と同じ条件にして、長くつきあっていくことにしました。ペリカンのブルーブラック・インクとの相性もよく、インクフローも、そして今の僕にとってはペン先の硬さもちょうどよく、考え事やアイデアをメモする時に最も頻繁に使う相棒になっています。急いで書き留める時には、今の僕にはちょっと固めのペン先の感じがいいようなのです。ただ不安なのは、ロジウムコーティングのペン先がやや硬いと思っているのが、僕の思い込みかもしれないということ。誰かにたずねてみたいのですが。